長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に欧米六カ国の駐日大使らが参列しないことが、鈴木史朗長崎市長から8日に発表された。
元はといえば、イスラエルの大使を今回呼ばなかったことが原因だとされている。鈴木市長は「個人的には呼びたかったけど、(祈念大会の実好委員が?)そのように決められたので」というような発言をしていた。
サウジアラビアに本拠がある「アラブニュース」はこのように伝えている。
東京:長崎市長は木曜日、1945年の原爆投下を記念する式典への米英両大使の出席を拒否したのは「残念だ」と述べた。
しかし同市長は、イスラエルを金曜日の式典に招待しなかったのは「政治的なものではない」とし、ガザ紛争に関連した抗議行動を避けるためだと繰り返した。
「大使が出席できないという連絡があったのは残念だ」と鈴木史朗氏は記者団に語った。
「政治的な理由ではなく、総合的に判断した。平和的で厳粛な環境の中で、円滑な式典を行いたい」と語った。
1945年8月9日、アメリカは長崎に原爆を投下し、爆発を生き延びたものの放射線被曝で亡くなった多くの人々を含め、74,000人が亡くなった。
これは、14万人が死亡した広島への最初の原爆投下から3日後のことだった。日本は1945年8月15日、第二次世界大戦における降伏を発表した。
米国、英国、フランス、イタリア、欧州連合(EU)、それにカナダとオーストラリアは、この式典に大使以下の外交官を派遣している。
アメリカ大使館とイギリス大使館だけが、長崎がイスラエルのギラード・コーエン大使を招待しなかったことと明確な関連性を示したが、ある情報筋はAFPに対し、イタリアの動きも直接の結果であると語った。
英国大使館は、イスラエルを除外したことで、「今年の式典に招待されなかった唯一の国であるロシアやベラルーシと、不幸で誤解を招くような同等性を生み出してしまった」と述べた。
フランス大使館のスポークスマンは、鈴木市長の決定を「遺憾であり、疑問である」とし、ドイツ大使館は「イスラエルをロシアやベラルーシと同じレベルに置く」ことを批判した。
火曜日に広島で行われた同様の追悼式典に出席したコーエン氏は先週、長崎の決定は「世界に誤ったメッセージを送るものだ」と述べた。
AFP (下線は複眼ニュースによる)
筆者は下線した部分と似た話をどこかで読んだなと思った。それは「マスコミに載らない海外記事」というプログの「不快な西洋エリート主義と現実世界からの乖離の象徴、パリ・オリンピック」という記事の中だった。
タイトルの通りそのブログではいろんな海外記事を掲載しているのだが、その選び方が「日本のマスコミでは流さないような記事を邦訳する」というもの。筆者は時々見にいく。
問題の記事の中にこう書かれている。
スポーツを通じて人類を団結させることは、フランス人ピエール・ド・クーベルタンの構想により1896年にギリシャで初めて開催された近代オリンピックの理念とされている。何十年にもわたり、世界最高峰のスポーツ大会は戦争や地政学的要因により混乱をきたしてきた。特に1980年と1984年にオリンピックがボイコットされた冷戦時代はそうだった。長年にわたる不安定さにもかかわらず国際政治において常に中立の姿勢が保たれていた。
もはやそうではない。現在のパリオリンピックは、あからさまに政治化されている。欧米が主導する国際オリンピック委員会が「ウクライナとの連帯」を宣言した後、ロシアとベラルーシはウクライナ紛争のため参加禁止となった。
これはIOCとオリンピックにとって完全なる不名誉だ。偽善はひどいものだ。アメリカとNATO同盟諸国が関与した多くの違法な戦争、イラクやアフガニスタンへの侵略と占領、その他の侵略行為を理由に、彼らを禁止することは一度も検討されなかった。
つまり、政治化しないはずのオリンピックを、パリオリンピックではしていたのだ。だからロシアとベラルーシを不参加とした。そして、今回の長崎の原爆犠牲者慰霊平和祈念式典には、ロシアとイスラエルを呼ばないと長崎市が発表した。それでイスラエルは、「ロシアと一緒にするな」と怒ったわけだ。ただ単に出席しないだけならともかく、まずはアメリカとイギリスを巻き込んだ。それに他の四カ国も足並みをそろえたわけだ。
イスラエルがアメリカとイギリスに指示したかどうかは情報がないので知らない。もしかしたらイギリスとアメリカは自発的にそうしたのかもしれない。
困ったのは長崎市だ。イスラエルとロシア、両国とも紛争中だ。きっと平和運動をしている人たちが、どちらの大使を呼んでも、多少の衝突が起きるかもしれない。それを懸念して両国に参加の案内を送らなかった。そしたら、イスラエルと近しい関係にあるアメリカとイギリスが不参加を表明したということ。鈴木市長の困惑は想像に難くない。
表面上はこういうことたが、「マスコミに載らない海外記事」を読んでからこの話を聞くと、少しニュアンスが変わってくる。つまり、西欧諸国は「善は我にあり」と主張しているように思える。だから「ロシアとベラルーシを排斥する」。その二国とイスラエルを同等に扱うなというわけだ。「平和祈念式典を政治化するな」と言われた長崎市は、「政治化しているのはどっち?」と思っただろうが、それを発言するわけにはいかない。
それぞれの立場に立つと確かに言い分はわかるが、穏当に言語化して、互いに歩み寄れるスペースを残して欲しいものだ。
ちなみに「マスコミに載らない海外記事」の「不快な西洋エリート主義と現実世界からの乖離の象徴、パリ・オリンピック」の出所はStrategic Culture Foundationという組織。英語版 wikipedia によれば、本部がモスクワにあるシンクタンクで、アメリカメディアの分析では、ロシアのプロパガンダをおこなっているという。Strategic Culture Foundation のサイトは存在するが、「不快な西洋エリート主義と現実世界からの乖離の象徴、パリ・オリンピック」という記事はなぜか消去されているようだ。「マスコミに載らない海外記事」にあるリンクは切れている。
混乱が起きることは覚悟の上で、六カ国の他にイスラエルとロシアの誰かを呼んで、話し合いの場を設けたらいいのにと思う。互いに嘘がないのなら。
_________________2024年8月9日追記
8月9日に時事通信社が以下のように伝えている。
ジャンピエール米大統領報道官は7日の記者会見で、エマニュエル駐日大使が9日に長崎市で開かれる「原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」を欠席することを問われ、「この特定の問題を把握していなかったので、何が起こったかを正確に確認したい」と述べた。
ジャンピエール氏は「方針の転換などについて、チームに聞かずに話をしたくない」とも語った。長崎の式典を巡っては、イスラエル大使が招待されないことに一部の国が反発している。
jijicom 「長崎式典欠席「把握せず」 米ホワイトハウス」
東京新聞の望月衣塑子氏は、5月17日に米軍機を使い、与那国町を訪れたことと共にエマニュエル大使の行動を「極めて侮辱的」と評している。
_____________2024年8月11日追記
ロシアのノズドレフ駐日大使が、西側諸国の大使が平和祈念式典に不参加を表明した件についての質問を受け「まさに式典が政治化されている一つの証だ」と述べた。
駐日米大使、11月に離任意向 民主勝利なら政権移行関与 共同通信 2024/8/10