モスクワに過去最大のドローン攻撃

モスクワ市長は21日、ウクライナがモスクワに「史上最大規模」のドローン攻撃を仕掛けたとして非難した。

CNNによれば、ロシア南西部クルスク州に対して越境攻撃を仕掛け、同州のセイム川に架かる主要な橋を破壊している。

クルスク州のセイム川に架かる橋の少なくとも二つが先週、使用できなくなり、衛星画像によると、ロシアはその後、セイム川に少なくとも三つの浮桟橋を建設した。

ロシア当局は21日、自国の防空システムが前日の夜からウクライナのドローン45機を破壊したと主張した。そのうち11機はモスクワ上空、2機はロシア西部のウクライナ国境沿いに位置するベルゴロド州、2機はクルスク州で破壊された。

モスクワのソビャニン市長は同日、テレグラムで「この試みはモスクワに対するこれまでで最大規模のドローン攻撃だ」と非難した。

ロイター通信はソビャニン氏の発言を引用し、ドローンの一部はロシア大統領府の南約38キロにあるポドリスク市上空で破壊されたと伝えた。

モスクワ市長が「史上最大規模」のドローン攻撃を非難 ウ軍はロシアの93集落制圧 CNN 2024.08.21 Wed posted at 19:01 JST

ロイターではほぼ同じ内容を伝えているが、ドローンの機数は同じだが、撃墜した場所と機数に若干の違いがある。

 ロシアの防空部隊は21日、モスクワなどロシア各地でウクライナから飛来したドローン(無人機)45機を同日未明に撃墜したと発表した。

うち11機はモスクワ州上空で撃墜。23機は南西部ブリャンスク州、6機は南西部ベルゴロド州、3機は西部カルーガ州、2機は西部クルスク州の上空で撃墜した。

ロシア、無人機45機撃墜 モスクワ市長「過去最大級」 2都市で空域制限 ロイター 2024年8月22日午前 12:46 GMT+9

セマフォーというニュースサイトは、この記事を伝える前提として、ロイター、アルジャジーラ、ワシントンポストの記事をまとめて、このように伝えている。

ロシアは、米国主導のNATO同盟がキエフの計画を支援したと主張している。ロイター通信によると、プーチン大統領の側近であるセルゲイ・チェメゾフ氏は、欧米がウクライナを「挑発」し続け、ロシア領を攻撃するよう仕向ければ世界戦争になると警告し、ロシア安全保障会議の副議長は水曜日のテレグラムへの投稿で、「敵が完全に敗北するまで」交渉は行わないと誓った。両国は今月、エネルギーおよび電力インフラ攻撃に関する交渉のためドーハに代表団を派遣する予定だったが、ウクライナがクルスクへの反撃を開始したため、ロシアはカタールの仲介者との会談を延期したと当局者はワシントンポストに語った。

Ukraine launches largest ever drone strikes on Moscow SEMAFOR Updated Aug 21, 2024, 8:59pm GMT+9

ウクライナのロシア侵攻をどう見るか

Responsible Statecraft の記事「シンポジウム:ウクライナのロシア侵攻は実際何を意味するのか?」は、今回のウクライナ軍のクルクスへの侵攻はどんな意味があるかを問うている。

クルクス侵攻の概要はこうだ。8月6日からウクライナ軍は東クルクス地域でロシアに対する奇襲的な国境越え攻撃を開始した。

キエフは、部隊がロシア領に20マイル以上進攻し、約400平方マイルに及ぶ74の集落と町を占領し、100人以上のロシア人捕虜を捕らえたと主張している。

一方、モスクワは侵攻を認めているが、水曜日の時点では、軍が国境を安定させ、係争地域の支配権を奪うために積極的に戦っていると述べただけで、死傷者数や実際の領土獲得範囲に関する公式の確認はない。

ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、この侵攻を「大規模な挑発」と非難した。一方、ウクライナ外務省は、これは領土の保持ではなく、そこに「緩衝地帯」を作ることで、ロシアによるクルスク地域からのウクライナへの長距離ミサイル攻撃を阻止することが目的であると述べている。

そこでResponsible Statecraft のスタッフは、10人の幅広い外交政策の専門家たちに次の質問をした。

「ロシアのクルスク地域への現在のウクライナ軍の侵攻は、より広範なウクライナ戦争にどのような影響を与える可能性があるか?」

10人の専門家たちはいろいろな答えをするが、立場の違いよにって色々と表現は違うが、総じてこのような話をしていた。

1.この作戦のみをみた場合、戦略的な意味はあまりない。なぜなら、ロシアがウクライナの侵攻した先を奪還しようと思えばすぐにでもできるからだ。ただし、視点を広く取るといろんな意味が見えてくる。

2.この作戦はウクライナという国から見ると、あまり合理的なものではない。だから、ロシアはそのようなことをされるとは予測していなかっただろう。奇襲作戦という意味ではある時点までは成功と言えるかもしれないが、長期的展望から考えると、かなり疑問が残る。

3.クルスク侵攻は、クルスク原子力発電所を含む広大な土地を奪取し、モスクワに既成事実を提示して、迅速に停戦を強制し、ウクライナの条件で和平交渉の場を設けるための交渉材料として使用できるという前提に基づいていたようだ。しかし、それに失敗した。

4.ウクライナは戦って勝てるということを西側諸国に思い出させ、武器や弾薬を送るという継続的な犠牲は無駄にならないだろうと思わせるためには有効だった。

そこで、識者によってその長期的展望にはいろんな説が生まれてくる。

1.ロシアへの心理的影響。

2.ウクライナがこれから何を始めるのか。

3.二国間の紛争のさらなるエスカレート

4.西欧諸国がどのようにこれに関わるか。

それぞれにそれほど長くはないインタビューだったので、あまり詳しくは答えられていないが、気になったのは、以下の二つのコメント。

ウェズリアン大学の政治学教授であり、コリン・アンド・ナンシー・キャンベル地球問題・民主主義思想教授であるピーター・ラトランド氏

この襲撃の軍事的コストと利益に関係なく、これがキエフにとって政治的クーデターであったことは疑いの余地がない。

確かに、ゼレンスキーはこのところ戦いに少し消極的になった感が、海外のメディアでは伝えられていたため、「この侵攻は武器供与によっていきなり強気になったのか?」と思っていたが、政治的クーデターだとしたら、辻褄が合うかもしれない。

スティーブン・ウォルト、イェール大学ロバート・アンド・ルネ・ベルファー国際問題教授

ウクライナのロシア侵攻は、ウクライナの士気を高め、キエフへの支援を続ける自信を西側諸国に与えるためのサイドショーだが、戦争の結果には影響しないだろう。ウクライナ軍は、防御が不十分なロシア領土約1000平方キロメートルを占領したと伝えられている。ロシアの総陸地面積は1700万平方キロメートル以上で、ウクライナが現在「支配」しているのはロシアの0.00588%だ。

比較すると、ロシア軍は現在ウクライナの約20%を占領しており、昨年夏のウクライナの攻勢の失敗は、ウクライナがこれらの地域を奪還することがいかに難しいかを示している。この侵攻はプーチンにとってちょっとした恥辱かもしれないが(ロシアがヨーロッパの他の地域を侵略するにはあまりにも弱すぎるというさらなる証拠でもある)、ウクライナの運命は、この作戦ではなく、ウクライナで何が起こるかによって決まるだろう。

一方で、ロシアを視点の中心に考えている田中宇氏の論は注目に値する。

ウクライナ戦争で米・非米分裂を長引かせる 田中宇の国際ニュース解説 24/8/14

ゼレンスキー、ロシアとの会談のモデルを説明 RT 24/6/30

ウクライナの指導者は、仲介者がモスクワとの永続的な解決に貢献できると述べた。

ウクライナのウラジミール・ゼレンスキー大統領は日曜、フィラデルフィア・インクワイアラー紙に対し、キエフはモスクワとの将来の和平交渉を否定はしないが、それは仲介者を通してのみ行われることができると語った。同大統領は、2022年の黒海穀物取引の仲介に使用された形式がこの目的に役立つかもしれないと示唆した。

キエフはこれまで、ロシアの条件を交渉の根拠として受け入れることを拒否し、モスクワは誠意ある交渉ができないと非難してきた。2022年後半には、ゼレンスキー大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領との交渉は「不可能」であると宣言する大統領令さえ発令した。

一方、モスクワは、キエフが紛争中にロシアが獲得した領土に対する主張を放棄した場合に限り、交渉を再開する用意があると主張している。2022年秋、ウクライナの旧領土4つ(2つの分離独立国ドンバス共和国とヘルソン州、ザポリージャ州)が一連の国民投票を経て正式にロシアに編入された。ウクライナは投票結果を承認しておらず、これらの地域、および2014年の同様の国民投票でロシアに編入されたクリミアに対する領有権を主張し続けている。

ゼレンスキー大統領はフィラデルフィア・インクワイアラー紙のインタビューで、ウクライナはロシアとの潜在的な和解の「モデルを見つけることができる」と述べた。大統領は、2年前にトルコと国連が仲介し、ウクライナの港から農産物を輸出するための回廊を設置することを許可した協定を指摘した。

ゼレンスキー氏によれば、アンカラと国連はモスクワとキエフとそれぞれ別個の協定を結んでいた。「それはうまくいった」と同氏は述べ、穀物回廊は当時「十分に長く」存在していたと付け加えた。

ロイター通信によると、モスクワとキエフは3月に新たな穀物協定にほぼ合意したが、ウクライナの交渉担当者は2か月の協議の後に突然交渉から離脱した。

ゼレンスキー氏は、モスクワとキエフの間で「領土保全、エネルギー、航行の自由」に関する協定が同じ形式で締結される可能性があると述べた。同氏は、他の国々を仲介に招く可能性を示唆した。「誰も、ヨーロッパと米国だけの問題だなどと言うべきではない」と述べ、アジア、アフリカ、南米の国々も参加し、モスクワとキエフに提出する文書の作成に協力すべきだと付け加えた。

「今のところ、このモデルしかない」とゼレンスキー氏は述べた。しかし、最終合意はキエフに「適したもの」で、ウクライナの条件に基づくものでなければならないと強調した。

ゼレンスキー氏は長年、自らの10項目の「平和方式」を推進しようと努めてきた。最近では、ロシアが出席しなかった6月15日と16日にスイスで行われた首脳会談でそのように述べた。モスクワはゼレンスキー氏の条件をきっぱりと拒否し、新たに獲得した領土の地位は交渉の余地がないと主張した。プーチン氏はさらに6月、キエフが現在支配しているロシアの4つの地域の一部から全軍を撤退させるよう要求した。

プーチン大統領によれば、ウクライナはNATOに加盟して中立国になる計画を放棄し、軍隊の規模も制限する必要があるという。

ロシアの条件を拒否しているにもかかわらず、キエフは最近、戦闘を終わらせる意思を示している。6月、ウラジミール・ゼレンスキー大統領府副長官のイゴール・ジョフクヴァ氏は、ウクライナは「できるだけ早く平和を望んでいる」と述べた。ゼレンスキー大統領自身も先週、キエフは「戦争を長引かせ」、「何年も続けさせる」ことを望んでいないと述べた。

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