ウクライナのロシア侵攻をどう見るか

Responsible Statecraft の記事「シンポジウム:ウクライナのロシア侵攻は実際何を意味するのか?」は、今回のウクライナ軍のクルクスへの侵攻はどんな意味があるかを問うている。

クルクス侵攻の概要はこうだ。8月6日からウクライナ軍は東クルクス地域でロシアに対する奇襲的な国境越え攻撃を開始した。

キエフは、部隊がロシア領に20マイル以上進攻し、約400平方マイルに及ぶ74の集落と町を占領し、100人以上のロシア人捕虜を捕らえたと主張している。

一方、モスクワは侵攻を認めているが、水曜日の時点では、軍が国境を安定させ、係争地域の支配権を奪うために積極的に戦っていると述べただけで、死傷者数や実際の領土獲得範囲に関する公式の確認はない。

ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、この侵攻を「大規模な挑発」と非難した。一方、ウクライナ外務省は、これは領土の保持ではなく、そこに「緩衝地帯」を作ることで、ロシアによるクルスク地域からのウクライナへの長距離ミサイル攻撃を阻止することが目的であると述べている。

そこでResponsible Statecraft のスタッフは、10人の幅広い外交政策の専門家たちに次の質問をした。

「ロシアのクルスク地域への現在のウクライナ軍の侵攻は、より広範なウクライナ戦争にどのような影響を与える可能性があるか?」

10人の専門家たちはいろいろな答えをするが、立場の違いよにって色々と表現は違うが、総じてこのような話をしていた。

1.この作戦のみをみた場合、戦略的な意味はあまりない。なぜなら、ロシアがウクライナの侵攻した先を奪還しようと思えばすぐにでもできるからだ。ただし、視点を広く取るといろんな意味が見えてくる。

2.この作戦はウクライナという国から見ると、あまり合理的なものではない。だから、ロシアはそのようなことをされるとは予測していなかっただろう。奇襲作戦という意味ではある時点までは成功と言えるかもしれないが、長期的展望から考えると、かなり疑問が残る。

3.クルスク侵攻は、クルスク原子力発電所を含む広大な土地を奪取し、モスクワに既成事実を提示して、迅速に停戦を強制し、ウクライナの条件で和平交渉の場を設けるための交渉材料として使用できるという前提に基づいていたようだ。しかし、それに失敗した。

4.ウクライナは戦って勝てるということを西側諸国に思い出させ、武器や弾薬を送るという継続的な犠牲は無駄にならないだろうと思わせるためには有効だった。

そこで、識者によってその長期的展望にはいろんな説が生まれてくる。

1.ロシアへの心理的影響。

2.ウクライナがこれから何を始めるのか。

3.二国間の紛争のさらなるエスカレート

4.西欧諸国がどのようにこれに関わるか。

それぞれにそれほど長くはないインタビューだったので、あまり詳しくは答えられていないが、気になったのは、以下の二つのコメント。

ウェズリアン大学の政治学教授であり、コリン・アンド・ナンシー・キャンベル地球問題・民主主義思想教授であるピーター・ラトランド氏

この襲撃の軍事的コストと利益に関係なく、これがキエフにとって政治的クーデターであったことは疑いの余地がない。

確かに、ゼレンスキーはこのところ戦いに少し消極的になった感が、海外のメディアでは伝えられていたため、「この侵攻は武器供与によっていきなり強気になったのか?」と思っていたが、政治的クーデターだとしたら、辻褄が合うかもしれない。

スティーブン・ウォルト、イェール大学ロバート・アンド・ルネ・ベルファー国際問題教授

ウクライナのロシア侵攻は、ウクライナの士気を高め、キエフへの支援を続ける自信を西側諸国に与えるためのサイドショーだが、戦争の結果には影響しないだろう。ウクライナ軍は、防御が不十分なロシア領土約1000平方キロメートルを占領したと伝えられている。ロシアの総陸地面積は1700万平方キロメートル以上で、ウクライナが現在「支配」しているのはロシアの0.00588%だ。

比較すると、ロシア軍は現在ウクライナの約20%を占領しており、昨年夏のウクライナの攻勢の失敗は、ウクライナがこれらの地域を奪還することがいかに難しいかを示している。この侵攻はプーチンにとってちょっとした恥辱かもしれないが(ロシアがヨーロッパの他の地域を侵略するにはあまりにも弱すぎるというさらなる証拠でもある)、ウクライナの運命は、この作戦ではなく、ウクライナで何が起こるかによって決まるだろう。

一方で、ロシアを視点の中心に考えている田中宇氏の論は注目に値する。

ウクライナ戦争で米・非米分裂を長引かせる 田中宇の国際ニュース解説 24/8/14

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