石垣島での自衛隊駐屯地建設について、住民投票が無視された件について

日本政府は辺野古新米軍基地建設と並行して南西諸島での自衛隊増強=南西シフトを急ピッチで進めてきた。2016年は与那国島、2019年は宮古島に陸自駐屯地が置かれ、石垣島にも2023年3月に石垣駐屯地が開設されている。

それぞれの島には、警備隊や沿岸監視隊のほか、ミサイル部隊の配備も進められている。

石垣島では建設が始まる前年(2018年)に、石垣市民たちによって駐屯地建設予定地の賛否を問う住民投票実施を目指す「石垣市住民投票を求める会」が2018年10月に結成された。

駐屯地建設地は石垣島の中央に位置し、水源地のひとつとして貴重な於茂登岳の麓であったため、市民から強い反発を招いていた。

防衛省から計画についての説明はほとんどなく、新聞紙面で計画を知った地権者もいたほどだった。

2018年8月、市民たちが陸水学や環境学の専門家を現地に招いて環境調査を実施した結果、「駐屯地建設予定地には上水道水源地や農業用水の取水せきがあり、自衛隊施設から流れ出す有害物質で汚染されてしまえば元に戻すのは大変困難であるため、環境アセスメントが不可欠」という結論に至った。

専門家らは石垣市に対して防衛省に環境アセス実施を要請するよう提言したが、市はこの提言に取り合わなかった上に、市議会で指摘された市条例に基づく生活環境や自然環境保全に関する市独自の調査もおこなうことはなく、駐屯地建設工事への着手を許した。

この駐屯地建設事業は「沖縄県環境影響評価条例」に基づく県の環境アセスメントの調査対象になるはず。 しかし、防衛省沖縄防衛局は、この改正条例が適用されるのが2019年4月以降に実施する事業であることを見越してか、その直前の3月1日に、経過措置に便乗する形で一部の造成工事に先行着手した。

その結果、駐屯地建設事業は適用対象外となった。

公共事業であるにもかかわらず制度の抜け穴をすり抜けるような法令軽視の態度に、住民の不満はより強くなった。

こうした背景で、石垣島に住む10代〜20代を中心に『石垣市住民投票を求める会』が結成された(2018年10月)。石垣市自治基本条例27・28条には「有権者<1/4>以上の署名で請求された場合、市長は住民投票を実施しなければならない」と定められていたので、市民たちはこの条例を根拠に有権者4分の1以上の法定署名を目標に署名運動を開始した。

期限は1か月、必要署名数は約1万筆。名前・住所・生年月日・押印が必要なのでハードルはとても高く、短期間でこれほどの法定署名を集めるのは難しいという声もあった。しかし、会は市長に実施義務を課すべく、市条例に基づく住民投票実施請求を目指した。

※日本の住民投票請求では「地方自治法」第74条の発議要件を参照するのが一般的。同法では必要署名数を有権者数の1/50に設定しているため、市条例よりも要件は緩いものの、会があえて「有権者の1/4」という高いハードルを課す自治基本条例に基づいて住民投票を求めたのは、署名数の要求を満たせば必ず住民投票が実施されるものであると確信できたから。

若い世代が中心になった運動に勇気づけられた島の人々が次々に運動に参加し、地元で選挙権を持つ高校生も自主的に署名に参加した。

署名運動は口コミでどんどん広がり、会のメンバーたちは得意のSNSも駆使して活動を紹介する動画を拡散、地元のラジオに出演し活動をアピールした。

地元スーパー「かねひで」に協力にしてもらい店頭での署名活動も展開。農業・畜産業従事者や会社員のメンバーは、毎日れぞれの仕事が終わったあとに個別訪問し署名をもらった。

署名集め終盤には、新聞に一面広告を出してより多くの人に呼びかけもした。

石垣市民に『あなたが好きな石垣島の風景』『あなたが好きな石垣島の人』の写真を募ったら、たくさんの写真や絵が送られてきた。一面広告の背景には、その写真や絵が使われた。ラスト5日を切ったころ、署名はまだ7,000筆ほどだった。

市民が団結して署名運動を広げた結果、なんと予想を大きく上回る約1万5,000筆が集まった。これは2018年当時の有権者数<3分の1>以上にあたる。署名数結果が発表された公民館では、多くの市民が喜びの声を上げた。

「これで住民投票は実施される」と誰もが確信した。

署名は2018年12月に石垣市長に提出され、石垣市長も「実施の方向になるだろう」と話した。署名は、選挙管理委員会の精査によって1万4,263筆が有効だと認められた。

にもかかわらず、石垣市長が住民投票を市議会に諮った結果、賛否が同数で拮抗したのち議長裁決に持ち込まれ、議長の「審議不十分により否決」との判断で否決された。

市長はこの市議会の否決を理由に、住民投票実施を拒否し続けた。

本来ではあれば、辺野古米軍基地建設の県民投票と同日に実施できるはずだった。

住民投票の会は否決した議員や議長、そして石垣市長たちと面談をしたが、議論は平行線を辿った。

市側の主張は「これは地方自治法での請求だった」や「石垣市自治基本条例での請求であっても実施義務は生じない」という内容だったので、住民たちはまったく納得できないという。

住民投票の会は、二度目の新聞全面広告を打ち出した。

「逃げるな、向き合え。」と市長や否決に回った議員たちに向かって訴えかけた。

1/4以上の署名を集めれば住民投票は実施されると信じて署名運動に奔走した市民たちの想いは踏み躙られてしまった。

石垣市は2016年に地元新聞の取材に対して、「議会の議決を必要とする条例の制定は含まれていない」との解釈を示し、「その数の署名が集まれば、市議会に諮ることなく、必ず住民投票を実施するというもの」と説明していた。

納得できない住民投票の会は、2019年9月に石垣市を相手に日本ではじめてとなる『住民投票義務付け訴訟』を那覇地裁に提起。訴訟にはお金も時間もかかり、その間に駐屯地は完成した。しかも、石垣市と住民投票を否決した市議は裁判中に無理やり住民投票条例27・28条を削除した。

1回目の『住民投票義務付け訴訟』は最高裁まで上告したが敗訴した。

しかし、これまでに類を見ない石垣市民の民主主義の挑戦をなかったことにはできない。

2024年現在、2回目の裁判となる『地位確認訴訟』を闘っている。
これは、“市民の投票の権利”と“市長の実施義務”を明らかにするための裁判だ。

これまでの住民投票裁判では、石垣市自治基本条例の制定に関わった関係者による「1/4要件は市長に実施義務を課すもの」という証言も証拠として提出している。石垣市民の住民投票請求には、市長に実施義務が課されていることは明らかだ。
このまま住民投票の権利が奪われたことを許してしまうと、住民自治と住民の権利を否定することにつながる。

那覇地裁や福岡高裁はこれまで、「行政訴訟の対象ではない」「削除された条例は審議の対象にできない」と訴えそのものを『却下』=門前払いして中身の議論に踏み込もうとしなかった。また、直近の2回目裁判の控訴審で、裁判所は「地方自治は間接民主制を基本としており、住民投票はその例外」だとする歪曲した憲法解釈を示して棄却した。

※国政は間接民主制だが、地方自治は首長選挙や住民投票など直接民主制を採用している。

2024年5月26日、弁護団は憲法学者の飯島滋明先生の意見書を添えて最高裁に上告書類を提出した。

2024年9月6日には、憲法学者や弁護士の方々と一緒に東京の最高裁判所へ要請行動をおこなう。

これが受理されるためには、住民投票の会の裁判を支持する多くの人々の応援が必要となる。要請行動の際、全国から集まったオンライン署名もあわせて提出する。

この一連の裁判での収穫は、争点のひとつでもある“地方自治法ではなく自治基本条例での請求”であることが認められたこと。

あとは市民の投票の権利と市長の実施義務があることを明らかにすれば認められる。

踏み躙られつつある日本の地方自治・住民自治を守るため、日本の民主主義において非常に重要なこの問題について、署名を求められています。

以上の文章は、change.org の「#住民投票は権利 上告へ、あなたの力を貸してください」にある文章を再構成しました。

署名はこちらで。

八重山毎日新聞に掲載された記事。
進む自衛隊機能強化 石垣駐屯地、開設から1年